フロント 2010年4月24日

0424-01-01d.jpg 諏訪公司さん

無柱の巨大ゲル建築に挑戦

直径8メートル、外周約25メートル、床面積約50平方メートル。山梨県でヨガ教室として使われる「ゲル」の仮組み作業現場。菱(ひし)格子に組まれた蛇腹(じゃばら)式の木組みを連結させて現れた空間は、驚くほど広い。この巨大なワンルームの屋根を「支える柱を使わずに建てる」のは、木工職人・諏訪公司さん(62)にとって「未知への挑戦」だった。
ゲルはモンゴル高原に住む遊牧民の移動式住居。換気や採光の役割を果たす円形の中央頂点部から、外壁に向かい放射状に渡された梁(はり)が屋根の骨格を成す。通常は2〜4本の柱で天蓋(てんがい)を支える。だが「柱があると用途が狭くなる」と、オリジナルの構造を貫いてきた。しかし今回は、これまで製作したゲルよりはるかに大きい。設計図どおりに建ち上げることができるか…。緊張が走った。
作業が進むにつれ、予想外の問題が次々と起きた。架けた梁を何度も組み直す。3人がかりで丸2日、ようやく完成した骨組みを前に、安堵(あんど)感がにじむ。一棟一棟、使う人の思いに寄り添い、積み重ねた経験が生かされた美しいフォルムだ。

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直径1.4メートルの天蓋から側壁に向かい、長さ3.6メートルの梁(36本)を渡していく

0424-01-03.jpg イベント貸し出し用の直径6メートルのゲル

東京から長野に戻った諏訪さんが、初めてゲルを製作したのは15年前。町の中に構えた工房に限界を感じ、山懐に抱かれた飯綱町に移転。仕事場は確保できたが居住スペースがない。考えた末、当時あこがれていたモンゴルの暮らしを実現しようと、試行錯誤で直径4メートルのゲルを建てた。
基本構造は同じでも、材料や細部の造作は全くの自己流。建築に携わった経験と県産材利用の可能性を考慮し、側壁はしなやかで強靱(きょうじん)なブナを、梁や入り口は軸方向に強いカラマツを使った。
自然界の息吹を感じながら、一つの空間ですべてをまかなう生活。「天蓋を見上げていると安心感に包まれる。まるで気が満ちてくるような感覚」という。文明の時代に、あえて選んだシンプルな暮らしだった。
出来上がった骨組みを穏やかな表情で見つめる諏訪さん。そのまなざしの先には、すでに新たな構想が描かれているようだった。
(記事・三井百合子)
(写真・竹内 大介)

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