フロント 2009年6月27日
木の温もり生かし作品に
ダダダダダ…。小刻みに動く電動糸鋸(のこ)の刃先に全神経を集中させ、厚さ7ミリの板に描かれた森の木々を、一本一本切り抜いていく。小さな作品で約150個、大作になると500個に上る繊細な作業が続く…。
サンダーで丁寧に磨き、5、6回色を塗り重ねて生命力を吹き込まれたパーツは、ジグソーパズルのように組み合わされ、四季折々の森の風景を映し出す。完成したレリーフを見ていると、木々の間を吹き抜ける風や小鳥のさえずりさえも聞こえてきそうだ。
グラフィックデザイナー志望だった新井敏雄さん(49)が木工の道に進んだのは、個性的な木の時計や照明器具をデザイン制作している会社に就職したのがきっかけ。同じ規格品を作り続けるうちに「硬さや木目など木の特徴を生かし、自分がイメージするものを、自分のペースで作りたい」と独立を決意。若穂綿内に工房を構えた。
しかし、自身の想いとは裏腹に葛藤(かっとう)にさいなまれる。「勤務していた会社のイメージの作品は作れるが作りたくない。あのころは何を制作したらよいか分からず、ただ工房でボーっとしていました。苦しかったですね」と振り返る。脱却するまでに要した歳月は3年。試行錯誤の末にたどり着いたのが、今の「ウッドイラストレーション」と呼ばれるオリジナルの手法だ。
新井さんの作品の多くは花、木、昆虫、動物など自然がモチーフ。黒檀(こくたん)の黒、ケヤキの黄、センの白、アフリカンパドックの赤など木本来の色を巧みに生かし、「これが木!?」と驚くほど細やかに表現している。「家の建て替えで、壊さなければならない思い出が詰まった家の太い梁(はり)を、長いすによみがえらせてほしい」という注文に応えたことも。
木の温(ぬく)もりが醸し出す世界は、いつの日も、そしていつまでも、人々の心を優しく包み込んでくれる。
切り抜いたパーツを見比べる新井さん
(記事・三井百合子)
(写真・伊東 征彦)
新井敏雄さん
1960年長野市生まれ、川中島町在住。84年北海道東海大学デザイン科卒業後、長野市内の木工制作会社に8年間勤務。92年自由工房設立。7、8年前から木工作家として各地で個展を開催。
※7月6日(月)まで、松代町のギャラリー象庵で、安藤ひかり(パートドベールのガラス)、西牧冨美子(漆工芸)とともに「見て楽しい・使って楽しむ作品展」を開催中