フロント 2009年8月8日
“阿修羅の正義”についてパソコンからの画像を使って説く福島さん
対話に励む工学博士の僧侶
善光寺玄證院(げんしょういん)住職・福島貴和(きわ)さん(62)。住む町がお互いの価値を認め合う豊かな社会であるよう、地元の人たちと共に多岐にわたり活動している。論客でもあり、既にスタートしている裁判員制度に対しては「宗教者あるいは宗教的信条をお持ちの方は『人は人を裁けない』ことを理解していると思う。今回の制度の欠点は、その発想の根底に厳罰主義、報復主義が潜んでいることにある」と毅然と発言する。
僧侶でありながら工学博士でもある。宗教と自然科学という、相反すると思われるものを身の内に持つ。
取材した日は、市民グループが勉強会を開いていた。講師の福島さんは、インド神話を引き合いに、仏教の教えを平易に説いた。茶話会で参加者の一人が「気付いたことがいくつかあった」と話すと、「うれしいですね。私の言葉が心に届いたといえるから。気付くことは自分を見詰めることです」。
「宗教者の役割は、人が安寧に暮らせるよう導く人生の案内人であり、弱者救済でなければならない」と言う。その実践が多岐にわたる活動となる。時には矢面に立つこともある。そんな思いまでしてやらなくても…との声には「いいえ、人のためというより自分のため。教えつつ教えられている。与えつつ与えられているんです」。
「好きな道を」という父親の言葉で研究者の道を歩み、17年前に今の職に就いた。“お寺さんの生まれ”とはいえ、未知の世界へ足を踏み入れた思いだった。
その時、「工学は西洋の合理主義に根差している。そこからは仏教の摩訶(まか)不思議は理解できないだろう」という、信大時代の一人の教授の言葉が浮かんだ。また、海外で出会った著名な科学・化学者ほど篤(あつ)い信仰心を持っていることも、ずっと不思議な思いでいた。なぜなのか-。「分かりたい!」という気持ちが向学心となり、こだわりや偏見を持たず仏教をゼロから学んだ。
しかし、答えはいまだ獲得していないと言う。その答えを求め、福島さんは今日も人々と対話する。
(記事・佐藤定子)
(写真・宮本辰雄)
福島貴和さんのプロフィル
1947年長野市生まれ。東京工業大学大学院理工学研究科化学工学専攻博士課程修了。信州大学工学部助手、ミシガン大学工学部化学工学科博士研究員、横浜国立大学工学部物質工学科助手および講師を経て、92年から善光寺玄證院住職。オリンピック、パラリンピックのための語学および介護ボランティアを組織。市民団体「渡来文化を知る会」会長、市ボランティアセンター運営委員、長野日仏協会副会長、いのちの電話長野評議員など