フロント 2008年10月25日

1025-01-011.jpg「奥入瀬渓流」(内閣総理大臣賞受賞作)

心で描く自然の多様な美

私は少年時代から画家になりたいと思っていましたが、20代で右手を失う事故に遭い、その夢を一時打ち砕かれてしまいました。しかし故刑部人(おさかべじん)先生(洋画家・日展会員)に知遇を得て、「絵は手で描くものではない。心で描くものだ」と励ましの言葉を頂き、以来絵筆を左手に持ち換えて60年以上描いてまいりました。

刑部先生からは「一部の専門家に見せる絵ではなく、その絵を求めた人がいつの日か、絵の中で旅をし、歌を歌い、詩を読み、昔を懐かしんだり、心を癒やすひとときが過ごせるような作品を提供しなさい」とも教えていただきました。

掲載作品に描かれている青森県の奥入瀬(おいらせ)渓流を初めて訪れたのは50年以上前のことです。原生林を流れる清らかな水の流れは、急流や滝もあれば、穏やかな川面もあり、大自然がつくりだす多様な美しさにすっかり魅せられてしまい、近年は毎年、春と秋に訪れて絵にしています。

写生をしているとき、倒木が放置されたままの姿を目にすると、次回来るときにこの木はどうなっているのだろうと思い、『いま描いておかなければ』という思いを強くします。今ある風景を次世代に絵という形で残しておくのも、画家としての役割のような気がいたします。

劇作家で文化功労者の故宇野信夫先生は私の画集に「山下貞治さんの絵に接する時、私たち人間にとって何より大事なものは、心であるということを悟ります。そして心で描いた絵がいかに私達を打ち、いかに慰めはげましてくれるかを感じるのであります」という言葉を寄せてくださいました。

私に描き続けていく力を与えてくださったお二人の先生の言葉を信条にして、これからも妻や多くの人に支えられていることを忘れずに、できるだけ長く描いていければと思っています。

(絵と文・山下貞治(さだはる))

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山下貞治さんプロフィール
1929年長野市生まれ、安茂里在住。73年、79年日展入選。79年県身体障害者施設へ油絵49点寄贈。89年日本現代水彩画協会展で文部大臣賞。91年日本現代美術協会展で内閣総理大臣賞。2000年県身体障害者施設へ油絵50点寄贈。02年日本現代美術協会展で厚生労働大臣賞。ほか受賞多数。03年紺綬褒章。現在、日本美術家連盟会員

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